【第八話】 鳥海山麓の森の奥に水の絶景を訪ねて。【後篇】
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雪に閉ざされた森の奥に佇む二ノ滝氷瀑。
荘厳な氷の彫刻に自然の不思議を見る。
春夏秋の3シーズンなら車でアクセスできる一ノ滝駐車場も、休憩所やトイレまでが2mの積雪にすっかり埋まっています。ここまでが約1時間半、そこからが約1時間、ガイドの方に先導いただいてのスノートレッキングの末、ようやく冬の絶景に会うことができました。
山形県庄内地方飽海三名瀑のひとつ、遊佐町二ノ滝氷瀑です。
母なる川として、遊佐の水の物語、人々の暮らしに欠かせない月光川の上流。鳥海山に注ぐ天の水は、小さい沢や湧水を集めながら渓をなし、崖の落差を滝で繋ぎ、人々の暮らしのそばへと豊かさを届けます。その水の物語の源にある美しい滝は、迫力ある流れのまま、大地に堂々と仁王立ちする両脚のごとく凍りつき、幻想的な姿を見せてくれます。
落差25m。二双に立ちそびえる氷柱に近づいてみました。自然が作り出す彫刻。水のうねり、水の躍動がストップモーションで、深く透き通る青色に光っています。そして驚きました。ドクドクと音がします。そうです、滝は外側だけが凍り付き、氷の柱のなかを水は血脈のように流れていたのです。それはたとえば、冬眠する生き物たちが鼓動を止めないように、樽に眠るウイスキーが呼吸をし続けるように。向かって右側から滝の下に入ってみました。氷の中で小さな気泡が動いています。「湧き水が多く流れているから水温が高めなんです」。滝の芯まで凍らない理由をガイドの方が教えてくれました。
まもなく冬がやってきます。麓の蒸溜所では試験蒸留が始まりました。同じ水脈が滝をつくり、美味しいウイスキーをつくる不思議さを想います。3年後か、5年後か氷柱をグラスに割り入れ、山形初のジャパニーズウイスキーを注ぎ、ロックで飲んでみたいと。