【第二話】 天地を旅する命の水元─みなもと。【前篇】

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    町を雄大な両翼で包む鳥海山の恩恵。
    海から山へ、山から大地へ、水は巡る。

    大陸から渡る西風は、日本海上空で水蒸気を抱え込み、山にぶつかって雲を作り大量の雨と雪を山沿いに降らせます。「西高東低」の気圧配置で知られる冬は特に顕著で、日本海側に雪が多く、太平洋側に晴れた日が多い理由です。

    遊佐町にそびえる鳥海山は、日本海の海岸線から山頂までわずか16km。海風をダイレクトに浴びて、冬は積雪深が30mにも達し、またブナの森が雨をたっぷり受け止めます。こうして蓄えられた雨雪は地中に染み込み伏流水となり、やがて地上に湧き出します。

    数百年にも渡る水の旅です。

    鳥海山山麓にある胴腹滝(どうはらのたき)。岩の間から直接、二筋の滝状に噴出する様子から、身体の「どうっぱら」に例えて名づけられたと言われています。昼も薄暗い杉林に囲まれ、湧水は苔むした沢を作り、辺り一面に幽玄な雰囲気を醸し出しています。

    冬も水汲みに訪れる人が絶えず、二筋の水はそれぞれ味が違い、人によっては左右で用途を使い分けるのだとか。その差は分からずとも、この水を沸かしてハンドドリップするコーヒーの美味しさは格別なのです。

    02

    生きた山の水が暮らしを生かす。
    水は遊佐の人々の生命でありシンボル。

    遊佐町の水道水は鳥海山の伏流水?

    そのような話を耳にし、町の水道原水を調べてみました。本当でした。取水している水源は町内に14ヶ所あり、確かにすべてが地下水。しかもそのうち4ヶ所は湧水なのです。全国でも有数の「湧水の郷」として知られる遊佐町、その名に偽りなし。人々は昔から豊かに自噴する水を有効に使って生活をしてきました。

    秋田県との県境に近い女鹿地区に、今では珍しい共同の水場があります。神泉の水(かみこのみず)です。山神が宿る鳥海山の湧き水を集落に引き込んだ、文字通り、神の泉。水場は6段の水槽に仕切られ、一番上は飲料、それから順に、果物の冷却や野菜・海藻の洗い場、洗濯用、泥汚れや農機具用、おむつ洗い用とそれぞれに用途が決められています。

    見出しの「生命でありシンボル」のフレーズは、神泉の水の解説板から拝借したもの。「源」の語源は「水元」であり、水は、暮らしのルーツ、命の源。水道が普及した今も、湧き水は地元の生活になくてはならない存在であり続けています。

    後篇に続く

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