【第八話】 鳥海山麓の森の奥に水の絶景を訪ねて。【前篇】

  • SHARE
  • 01

    深い雪をかき分け2時間半のスノートレッキング。
    凍てつく静寂の冬に氷の滝を目指す。

    鳥海山の伏流水は、平地に湧くものは暮らしを潤し、山腹に湧き出せば峻険な渓谷を生み美しい景観をつくります。水の豊かさ、渓谷の美しさを象徴するのは、滝が見せる絶景です。日本全国に落差5m以上の滝は約2500あるそうですが、遊佐蒸溜所が立地する山形県はそのうち230を数える日本一の滝王国と言われています。なかでも鳥海山を水源とした滝は数多く、以前に紹介した胴腹の滝や高瀬峡の滝群も山形県を代表する名瀑です。

    遊佐町にはもう一カ所、どうしても訪れたい滝の名所があります。一ノ滝・二ノ滝渓谷です。渓谷は11もの滝を有し見応え充分です。そしてなにより圧巻なのは、アウトドア雑誌の「日本の絶景」特集号の表紙も飾った冬の氷瀑です。
    氷瀑とは、極寒によって滝の水が流れ落ちながら凍りつき、氷柱になったものを言います。毎冬「二ノ滝スノートレッキングツアー」が開催され、ガイドが案内するため安全に氷瀑を見られると超人気のツアー。たまたま、ツアー前日にガイドや町のみなさんが雪に覆われたブナ林にツアーのための道をつくると聞き、同行させてもらうことに。

    冬期は雪のため、約3km手前の胴腹の滝付近で車は通行止め。最初の目的地である一ノ滝駐車場までおよそ1時間半、1m以上の積雪に覆われた車道をスノーシューを履いて歩きます。渓谷の散策道入り口を示す鳥居も、そのほとんどが雪に隠れています。

    そこからはさらにブナ林を1時間。急斜面に張り付くように横切りながら、先行するガイドが雪をかき分けて作ってくれた足跡について林間トレッキングです。道を外れると腰まで埋もれてしまうほどの深雪。普段なら渓谷を流れる水の音や、滝の轟き(とどろき)が遠くに響いているはずなのですが、今は静寂の世界、次第に荒くなる自分の息づかいだけがやけに大きく感じられます。

    「もう着きますよ」という声にホッとすると同時に、二ノ滝神社を覆い尽くす雪の壁に可愛らしい雪ダルマを見つけました。毎年、冬期間の安全を願ってガイドの方が作るのだそうです。

    そして林は突然に開け、前方に水音を無くした滝が。

    一ノ滝

    02

    森全体が華やかな赤と黄で埋め尽くされる秋、
    遊歩道トレッキングで2つの滝に会う。

    ガイドなしでは危険を伴う厳寒期の氷瀑探勝ツアーも、それ以外の季節は家族連れでも気軽に楽しむことができる散策道が整備されています。一ノ滝駐車場に車を停めて、すぐ手前の、冬は雪に覆われる鳥居が一ノ滝・二ノ滝渓谷へ下る入り口。沢の音が近づくにつれ、それとは明らかに異なる轟音が混じります。その音を頼りに駐車場から15分ほど。一ノ滝展望の看板から階段を降りると豪快な直瀑、一ノ滝が目前に。

    高さ20m,ドードー、ゴーゴーと、青緑した深い滝壺に白泡を立てて流れ落ちる一ノ滝。前日から続いている雨のせいもあって、秋には珍しいほどの水量に驚かされます。飛沫は観瀑台まで届き、周囲の草木をいつも以上にみずみずしく輝かせます。

    紅葉の散策道に戻り、上流の二ノ滝へ向かいます。一ノ滝神社から緩やかな上り下りを幾度か繰り返して二ノ滝神社へ到着。そのすぐ先、開けた岩場の奥に二ノ滝が現れました。一ノ滝からは約25分ほどです。二筋に分かれた流れに、赤や黄に色づいた木々が彩りを添えて美しさを増し、その姿、佇まいに思わずため息がこぼれます。鳥海山の名所、千畳ヶ原など広いエリアの水を集めるため渇水期も涸れることはありませんが、この日は水量も多く迫力満点です。

    ひとつの滝の存在が、これほどまでに鳥海山の水の豊かさ、遊佐の自然の奥深さを感じさせるものなのですね。二ノ滝から上流は山頂への登山道となり、渓谷沿いに間ノ滝、三ノ滝なども見ることができるそう。ですが、今日はここまで。

    春は新緑、夏なら山野草が滝見トレッキングの楽しみ。渓谷全体が華やかさをまとった晩秋のこの日は帰り道の途中で雹(ひょう)も降り、もうすぐ北国の長い冬が近いことを教えてくれるのでした。

    後篇に続く

    二ノ滝

    関連記事