【第三話】 神秘で語られる幽玄な水域を巡る。【後篇】
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鳥海山南麓深くに佇む修験の秘境。
水と緑の渓谷美に心が浄化される。
「洗う」という行為を私たちは毎日繰り返します。 顔を洗い、手を洗い、体を洗い、食物を洗い、器を洗い、衣服を洗い、暮らしの当たり前としてヨゴレから身を守っています。一方で、心を洗うといった、ケガレを払う精神的な浄化をも意味します。
御神体そのものの御山がもたらす水のパワーの神秘、水に対する畏敬の念は、暮らしに必要な実りを育んでくれることへの感謝と同等かそれ以上に、禊(みそぎ)、滝行など信仰の行に深く結びついています。
遊佐町が位置する山形県庄内地方でも屈指の名勝とされ、ハイキングやトレッキングの適地のひとつに高瀬峡があります。名前の通り、いくつもの沢にまたがって滝や淵が続き、新緑や紅葉の季節には、美しい渓谷美を堪能できるスポットとして親しまれています。
高瀬峡の圧巻は、緑陰の登り下りを歩んだ最奥に、荘厳な姿を見せる大滝です。落差20m。ここから先に道はなし。森の行き止まりにぽっかりと開いた洞のような空間は、滝壺にとどろき落ちる水音と飛沫で満たされます。
この辺りは、麓に鎮座する剱龍神社(けんりゅうじんじゃ)の修験場の跡と伝えられています。鳥海の神の懐に抱かれ、荒行をつむ修験僧たちの秘境。大滝が別名「安楽坊滝」と呼ばれるのはそのためです。
高瀬峡入り口から大滝に至るまで約4kmほど。渓にかかる吊り橋あり、大木をまたぐ梯子あり、ほどよい疲労感と清涼な空気に、修行とまではいきませんが確かに浄化される自分を感じるのです。