【第十話】 ゼロからのウイスキーづくり。遊佐蒸溜所の流儀。【後篇】
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遊佐町の自然そのものを醸すウイスキー。
丁寧に正直に一切の手抜きをせずに。
酒田市と遊佐町の酒蔵9社の共同出資で、昭和25年(1950)に山形県醗酵工業株式会社が誕生しました。日本酒の品質調整に使う原料用アルコールを製造し、地元の酒蔵に供給するために設立。ほぼ時を同じくして、甲類焼酎の製造販売を開始しました。その後、現在の株式会社金龍に社名を変更。蒸留酒製造の技術とノウハウを積み重ね、ユーザーの信頼と支持を確かなものにしてきました。
しかし、佐々木雅晴社長はこう話します。
「ウイスキー製造は初めてのこと。今までの知識や経験はあえて封印し、まっさらな状態からスタートする、一から謙虚に学んでいきたいと考えています。それがウイスキーに対するリスペクトであると思います」
鳥海山を中心とした遊佐町の豊かな自然、「水」「空気」「景観」は、ウイスキーづくりにおいて最大の魅力。なかでも、良質で豊富な水は、ウイスキーに不可欠です。鳥海山からの伏流水に由来する仕込み水は硬度46度の軟水。バランス良いミネラル分が、発酵アルコールを引き出す酵母の栄養になり、これが香味や酒質に影響します。
「年間を通してほぼ一定の水温を保つ極めて良質な水です。まろやかで味が浸透しやすく、ウイスキーづくりにとても適しているのです」
そして空気。ウイスキーは樽を通して呼吸しており、そのため仕上がりの60~80%は貯蔵環境で決まると言われています。スコットランドのフォーサイス社に設備・指導を依頼し、ウイスキーづくりの手本としながらも、遊佐町の新鮮で澄んだ空気が、この土地ならではのオリジナリティを生み出してくれるはずと、佐々木社長は言葉を繋ぎます。
「日本人らしい、神は細部に宿るという精神で、丁寧に正直に一切の手抜きをせずに、完成度の高いジャパニーズ・ウイスキーを造っていきたいのです。そして、世界が憧れるウイスキーを通して“YUZA”の名前を世界中に広めていきたいと考えています」
自然も人情も伝統や歴史も、遊佐町の風土には古き良き日本の原風景が息づいています。そんな遊佐の魅力をたっぷりと凝縮した、遊佐ならではのウイスキーづくりを取り巻く物語「トチとヒトとトキ」は、今回の第十話【後篇】にて完結します。みなさまとともに乾杯できるその日を心待ちにしながら。