エッセイ:『カスクマンの初仕事』

 

コン、コン、コン

カン、カン、カン

カスクマンが今日も子守歌を奏でています。

 

 

ニールの熱血指導の末、毎日けたたましいアラームの中を駆け回りながらも、なんとか自分達の力だけで稼働し始めた遊佐蒸溜所。

(彼らが導入してくれたプラントは、各機器の作動状況がコンピューターでモニタリングできるようになっています。少しでも怪しい動きを検知すると、とんでもない音量のアラームがビービーと鳴るのです。とってもハイテクですね。)

 

蒸溜所では、1日に500L以上ものニューポット(=蒸留したてのウイスキー、ウイスキーの赤ちゃん)が誕生します。蒸留したてのウイスキーって、実は無色透明なんですよ。このウイスキーの赤ちゃん達は、美しい琥珀色に成長するべく長い眠りつきます。そのためのベッドが樽なのですが、ここでも1つ、とっておきのエピソードがあるのです。

 

 

通常、スコッチウイスキーは新樽に詰めることはあまりなく、何かしらの酒類が詰められていた樽を再利用します。ジャパニーズウイスキーも大方これに則っているかと思います。例えばバーボンウイスキーの空き樽を使えばバニラのような香り、シェリー酒の空き樽を使えばドライフルーツのような香りを自分達が造ったニューポットに付与できるというメリットがあります。

遊佐蒸溜所にはるばるやってきた最初の樽達はバーボンウイスキーの空き樽でした。彼らは、異国の地で長い歴史を積んできた、趣のある見た目をしています。

 

 

2018年11月6日、記念すべき蒸溜所初の樽詰め!

…のはずでしたが、古い樽だからなのでしょうか。木々の隙間からどんどん漏れ出てくるではありませんか!その漏れ率なんと40%以上。ウイスキーの赤ちゃん達はおちおち寝てもいられません。

その後に入荷してくる樽も必ず漏れが発生します。とんだ不良品ではないか!さてどうしたものか。

そんな中、懇意にしている仲間の蒸溜所さんが、視察しに来る事になりました。

熟成庫にたどり着いた彼らに早速相談します。

 

「ウチに入ってくる樽は、質が悪いのか漏れてばかりで大変困っているのです。御社の樽はどのくらい漏れるものなのですか?」

『それは大変ですね。漏れは100樽に1樽あるかどうかくらいですね。タガ締めは材木屋さんに任せていますよ。』

「ん?タガ締めって?」

『…遊佐さん!樽というのはね、タガ締めをしてから使うものなんですよ!』

 

慣用句でも「箍が外れる」だとか「箍が緩む」とか言いますよね。

人間でも緩んでいたら好ましくない物。その本家本元のタガが締まっていなければ、当然漏れ出るわけです。

 

 

それからは、タガにタガネを沿わせて、

コン、コン、コン

と叩いて締め直すようになりました。

おかげで漏れの発生する樽はほとんどなくなり、2年半近く経った今では1600以上の樽の中でウイスキーの赤ちゃん達がすやすやと眠りに就いています。

 

▲No.0001から始まった樽も、現在は4段積みの壮観な光景。今頃どんな夢を見ているのでしょうか。

 

(ブナの森新聞令和2年冬号第13号『新人蒸溜家が挑むオンリーワンなウイスキー』掲載)